大阪高等裁判所 昭和39年(行コ)57号 判決 1968年1月30日
控訴人 釜谷道恵 外一四名
被控訴人 国 外一名
訴訟代理人 広木重喜 外九名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
第一申立
一、控訴人ら
原判決を取消す。被控訴人国は控訴人らが郵政省職員たる地位にあることを確認する被控訴人下市郵便局長が控訴人柳本幹子を除くその余の控訴人らに対して昭和三六年三月一八日付でなした願により郵政省職員たる職を免ずる処分を取消す。訴訟費用は第一二審とも被控訴人らの負担とする。
二、被控訴人ら
主文同旨。
第二主張および証拠関係
当時者双方の主張、証拠の提出、採用、認否は、次に付加訂正するほか、原判決事実摘示と同一(ただし原判決一五枚目裏一〇行目の「柏木実」の次に「同峰谷重行」を加え)るであるからこれを引用する。
一、控訴人らの主張
(一) 控訴人柳本幹子の辞職申出の撤回の日を昭和三六年三月一日と訂正する。
(二) 控訴人柳本を除くその余の控訴人らにおいて、被控訴人下市郵便局長に対し、依願免職処分の無効であることを前提としてその取消を求める部分(原判決五枚目裏三行目の「原告柳本を除く」以下五行目までを)撤回する。
(三) 全逓労組は昭和三五年七月山形県上ノ山市で開かれた全国大会の決定以来、電通合理化の実施に伴う労働条件の変更に対して、事前協議協約の締結を求め、この労働協約獲得のため組合運動を一貫してきた。ところが郵政当局すなわち大阪郵政局上市・下市郵便局長らは右全逓労組の大会決定以後の斗争方針を十分知りながら、いまだ組合の方針が下市・上市郵便局関係組合員に徹底していないことを利用して、これらの組合員を一括して全逓労組の方針から離脱せしめ、全逓労組の団結を切り崩す工作を行つたのであつて、これらの工作は労働組合法第七条第三号にいう組合に対する支配介入行為であり、その結果控訴人らの辞職願が提出されたのである。そして昭和三六年一月二日、同月二三日の組合集会において控訴人らが真実組合の方針と組合員たるみずからの立場を理解し、当局側の団結支配から離脱して真の団結意思の上に立ち、本件辞職願の撤回をしたのである。ところが、郵政当局はこのような控訴人らの団結意思の自覚に基く行為に対し、その報復措置として意に反すること明かであるにもかかわらずあえて免職処分を発令したものであつて、かかる団結侵害の意図のもとになされた本件免職処分は、労組法第七条第一号第三号に該当し、無効といわねばならない。
(四) (1) 控訴人らのごとく、公共企業体等労働関係法(以下公労法という)の適用を受ける現業国家公務員については、職員の意に反する不利益処分が不当労働行為を構成する場合には、公共企業体等労働委員会(以下公労委という)に対する救済申立が認められる反面、人事院に対する審査請求の規定の適用が排除されている。従つて、不当労働行為については、前置手続である訴願に該る審査請求が公労委に対する救済申立によつて代置されているものというべきであるから、控訴人らのなした救済申立によつて訴願前置の要件は充たされている。一般に、労働委員会における救済が、行為の有効・無効なる表現を用いないとしても、不当労働行為の判断自体、その行為の違法性の判断と同一であり、不当労働行為を構成する行政処分が直ちに違法性をもつものであり、、その効力の是認されないことは明かである。してみると不当労働行為救済手続も抗告訴訟の前置手続たる訴願の実体を十分に備えたものといわねばならない。
(2) 訴願前置主義は国民が広く裁判を受ける権利を尊重する立場からして問題があり、できるだけ訴願を広く解釈すべきものである。そして、何を訴願とするかは、その訴願手続の実質よりも、今日では要するところ本人に請求権があり、この請求があつた場合に行政機関が本人との関係において一定の救済をはかるため裁決・決定命令等を行うものであるかぎり訴願と考えるべきものである。本件の如く、本人の申立により公労委が不当労働行為の成否を判断し、救済命令によつて救済をはかり、その間処分庁は本人からの申立を機会にみずからの処分につき再考の機会を十分に与えられており、訴願前置主義の趣旨は全うされているのであるから、本件公労委に対する申立が訴願に当ること当然である。
(3) かくして、控訴人らが訴願手続に当る公労委に対する救済命令の申立をした以上は、本件取消訴訟において処分の違法を攻撃する事由は、訴願手続における不当労働行為の主張のみに限定されないのである。
(五) なお、不当労働行為の救済申立が訴願に当か否かは別としても、控訴人らが少くとも右救済申立をしている現状にかんがみ、公労委で本件処分を争いながら、一方、人事院でも争うことを控訴人らに要求することは余りにも酷に失するのみならず、公労委に救済申立をなすことによつて訴願制度の目的たる行政庁の反省の機会を与える趣旨は十分全うされているのであるから、このような場合には、行政事件訴訟特例法第二条但書の「正当な事由」があるものというべきである。また、控訴人らはいずれも被控訴人国より毎月支給される俸給のみで生活を営んでいたものであり、本件免職処分によりこの支給がなされない状況にあつては人事院に訴願をなし、その判定をまつて訴訟を提起する程の余裕がないのであつて、このような場合こそ、前記但書所定の「訴願の裁決を経ることに因り著しい損害を生ずる虞のあるとき」に該当するものというべきである。
二、被控訴人らの主張
(一) 本件の場合、控訴人らを含め当初上市郵便局および下市郵便局に勤務する全職員は、右両郵便局の電報電話業務の改廃に伴い吉野電報電話局、下市電報電話局への集団的な配置転換計画をうけ入れ、これに呼応して自由意思に基いて辞職願を提出したものである。しかるに、その後、全逓労働組合の電通合理化反対斗争のスローガンに基く、数次の組合大会またははげしい組合運動の展開につれ、組合の方針ないし指導をうけ入れて一斉撤回の挙に出て、公社および郵政省の業務の運営を混乱に陥れようとしたものである。されば本件は、一個人が誤つて提出した辞職願を後日そうでないことがわかつたため撤回するに至つたという如きものとは全く趣を異にし、控訴人らが組合の事前協議協約獲得斗争のいわば前衛として、また当局の合理化方針に対する反対運動の体現者としてなされた撤回行為である点が重視さるべきである。
なお、控訴人らは各自本件辞職願撤回の理由として、それぞれ個人的の事情を述べているが、これを検討しても何ら納得のできる理由は見出せないのであつて、もしそれらが撤回の主たる事由であるとすならば、それこそ全くの恣意的撤回であり、信義則上到底許されないものといわねばならない。
(二) (1) 訴願前置制度の趣旨とするところは、行政処分に対する司法審査をなす前に行政権に再審査の機会を与えてその自主的解決を期待し、同時に行政手続による解決によつて司法機関の負担軽減をはかることを目的とする。従つて、ここにいうところの訴願は、行政上の不服申立手続のうち、抗告訴訟に前置させるに適したもの、すなわち、抗告訴訟的性質、内容を有するものでなければならない。ところで抗告訴訟は、行政処分の違法性自体を直接訴訟物となし、行政処分の違法性を確定することによつて処分の効力を失わしめることを目的としている。それ故、抗告訴訟的内容を有する訴願もまた行政処分の違法性、効力を直接判断の対象とするものでなければならない(もつとも行政処分であるから、処分の適法性のみでなく、当、不当にも審査は及ぶ)。そして、人事院に対する審査請求はまさに右の意味における訴願に該当する。一方、不当労働行為制度は、労働組合法第七条各号に規定する職員の労働基本権に対する侵害行為が行われた場合、公労委が使用者に対し原状回復の具体的措置を命ずることによつて救済をはかる制度であり、救済申立権者は不当労働行為を受けた職員のみでなく、その職員を組合員とする職員組合も含まれるのであつて、上述のような抗告訴訟的性質を有しない。
ところで、控訴人らのような現業の国家公務員(公労法第二条第二項第二号)に対してその意に反する不利益処分が行われた場合において職員の不服申立事由が不当労働行為を理由とする場合と、それ以外の違法事由を理由とする場合とでは、その救済手続が截然と区別されている。このことからみて、不当労働行為に対する救済手続においては、それ以外の違法事由の主張は許されず、また、それ以外の違法事由に対する救済手続においては、不当労働行為の主張は許されないと解するのが、現行法制の趣旨とするところといえる。それ故、本件処分の取消の訴において、不当労働行為を違法事由として主張する部分は無意味なものというほかなく、本件は結局不当労働行為以外の違法事由を請求原因とする処分の取消の訴とみるほかはない。そうすると、本件処分取消の訴は、訴願前置の要件を欠く不適法な訴として却下を免れない。
(2) 仮りに、不当労働行為を違法事由として処分の取消の訴を提起することができるとしても、両者は訴訟物を異にするから、本件訴は不当労働行為を理由とする訴とその他の違法事由を理由とする訴と併合されているものと解されるから、不当労働行為を理由とする処分の取消の訴の部分は、訴願を経ることなく訴を提起することが許されるとしても、それ以外の違法事由を理由とする処分の取消の訴の部分は、訴願前置を欠く不適法な訴といわねばならない。
(3) さらに、不当労働行為とその他の違法事由とは、一つの訴訟物における攻撃方法の差に過ぎないとしても、不当労働行為を理由として訴願前置を経ることなく提起された訴訟手続においては、不当労働行為以外の違法事由の主張は当然に制限されると解するのが相当である。
(三) なお、控訴人ら主張のように、かりに公労委に対する不当労働行為の救済申立が訴願に該るとしても、控訴人らは、本訴提起当時には、未だ公労委に対する救済申立をしていなかつたのであるから、これが不適法な訴であることは明かである。しかも、控訴人らの公労委に対する救済申立は、何らの審理をなすことなく、短期間のうちに取下げられたのであつて、このような訴提起後の極めて形式的な救済申立によつて不適法な訴の瑕疵が治癒されるものではない。
三、証拠関係
(一) 控訴人ら
当審における証人田端康成の証言を採用。
(二) 被控訴人ら
当審における証人魚津茂晴、同蜂谷重行の各証言を援用。
理由
一、昭和三六年三月一八日当時控訴人柳本幹子(当時福井姓-以下同じ)が奈良県上市郵便局(特定局)に、その他の控訴人らが同県下市郵便局(普通局)に勤務し、それぞれ郵政省職員として被控訴人国に雇傭されていたこと、控訴人柳本に対しては大阪郵政局長が、その他の控訴人らに対しては下市郵便局長が、昭和三六年三月一八日付でそれぞれ控訴人らの願により郵政省職員の職を免ずる旨の処分の発令をなしたこと、右は、控訴人宮坂八重子が昭和三五年一一月一日付、控訴人柳本が同年一二月二六日付、控訴人玉崎陽子、同福田澄子、同大川クニ江、同植田春代、同岡田昌子が同月二八日付、その他の控訴人らが昭和三六年一月六日付の各書面で、任命権者に対して辞職の申出をしたことを理由とするものであることは、いずれも当事者間に争ない。
二、控訴人らは、本件依頼免職処分は下記の理由によつて無効であると主張するので、以下これについて判断する。
(一) 本件依願免職処分の前提たる控訴人らの辞職の申出は、その自由意思に基かないものであるとの点について
当裁判所もまた原審と同様、郵政省当局が、上市郵便局においては電話主事で全逓支部委員である喜多宗治らを通じて、下市郵便局においては貯金係の内務主事で全逓下市支部長である蜂谷重行を通じて当該職員に辞職願の提出を勧告指導させた行為は、控訴人らが辞職願を提出するに至つたことの動機となつたにとどまり、控訴人らはいづれも右勧告に従いその自由意思に基いて辞職願を作成し、提出したものであり、その間当局の強制があつた事実は認められないと判断するものであつて、その理由は、これが認定の資料として当審における右証人蜂谷重行の証言を加えるほか、この点に関する原判決理由説示(原判決一六枚目表一〇行目から一九枚目表末行まで)と同一であるから、これをここに引用する。
(二) 本件免職辞令の発令前に控訴人らは辞職願を撤回しているから右処分はその前提を欠くとの点について
控訴人柳本が昭和三六年三月一日、その他の控訴人らは同年二月二四日それぞれその任命権者に対して内容証明郵便をもつてさきになした辞職申出の撤回を通告したことは、当事者間に争いがない(なお、控訴人らは、昭和三六年二月四日大阪郵政局において全逓近畿地方部執行委員長槙野久次、全逓奈良地区委員長河霜菊雄両名を代理人として、右両名に同行した控訴人上中栄美子は自か、ら、いずれも口頭をもつて、大阪郵政局長に対し辞職申出を撤回したと主張するけれども、当審における証人魚津茂晴の証言に徴すると、当日は大阪郵政局において辞職願を返せという団体交渉が行われたに止り、辞職願の撤回についての具体的な意思表示があつたものとは認められない)。
ところで、公務員の辞職願についても、それに基く免職辞令の交付がある以前においては、原則としてこれを自由に撤回し得るものというべきであるが、もし無制限に撤回の自由が認められるとすれば、場合により信義に反する辞職願の撤回によつて、辞職願の提出を前提として進められた爾後の手続がすべて徒労に帰し、個人の恣意により行政秩序がぎせいに供せられる結果となるので、免職辞令の交付前においても、辞職願を撤回することが信義に反すると認められるような特段の事由がある場合には、その撤回は許されないものと解するのが相当である。そこで、控訴人らの右辞職願の撤回が、はたして被控訴人らの主張するような信義に反し許されないものであるかどうかについて考えてみるに、控訴人らの辞職願の提出が、公社における電気通信業務の直営化というもつぱら当局側の都合に基く勧告に応じてなされたものであることは、前段引用の原判決認定のとおりであり、また上叙辞職願の撤回の理由のうちには、控訴人らのうち一部の者について退職後の公社への採用実現に対する危惧ないし採用後の勤務についての不安、その他の個人的事情があつたことは、原審における控訴人ら各本人尋問の結果にしてこれを全く香否定し去ることはできない。しかしながら、当時、全逓信労働組合(全逓労組)は電通合理化が組合員の労働条件に重大な影響あるものとして、当局に対して事前協議協約の締結を求め、該協約獲得の手段としていわゆる居残り斗争を展開しており、特に昭和三六年一月二二日には下市で、翌二三日には上市で宝樹委員長を中心とする組合の集会が開かれ、これらの集会その他の運動を通じて控訴人らを含む辞職願提出者に対してこれが一せい撤回方を強力に指導した結果、控訴人らが右組合の指導統制のもとにその方針に従うべく決意するに至つたが、むしろ本件辞職願撤回の主な動機であること、一方郵政省においては控訴人らを含む一一〇名の者の辞職願の提出に基き、公社側と要員計画の打合せをつづけ、昭和三六年一月一八日頃にはほぼその協議を終え、公社側の要請によつて同月下旬から交換業務従事者の事前訓練を実施するなど予定の計画を進めていたところ、前記辞職願の一せい撤回によりその実施に一時的ではあつたが少なからぬ支障を生ぜしめたことなどの事実が、この点に関する原判決挙示の各証拠ならびに当審における証人魚津茂晴同蜂谷重行の証言その他弁論の全趣旨によつて認められるところである。そうだとすると、右の如き全逓労組の居残り斗争の方針に従つた一せい撤回の一環として行われた右控訴人等の本件辞職願の撤回を、その動機目的に徴して信義に反するものと評価した下市郵便局長の判断には一応無理からぬところがあり、従つて、その撤回が許されないものとして控訴人らは依願免職にした本件処分がかりに違法であるとしても、その瑕疵は必らずしも処分当時において明白であつたものとはいえないので、その違法は本件依願免職処分の取消事由となることはあつても、当然無効をきたすものではない。
(三) 本件依願免職処分は(1) 控訴人らの辞職願の撤回が組合の方針に従つたものであることを理由にこれを無視してなされたもので、不当労働行為に該当するほか、(2) 辞職願を撤回した控訴人らの意に反する免職処分として実質上の解雇に当り、昭和三五年一二月一二日の労働協約に反し無効であるとの主張について
当裁判所もまた原審と同様、これらの点に関する控訴人らの主張はいずれも理由がないと判断するのであつて、その理由はこの点に関する原判決の理由説示(原判決三〇枚目表九行目から三一枚目表一まで)と同一であるから、これをここに引用する。当審証人田端康成の証言によつても、右認定を覆えすには足りない。
以上の説明のとおり、本件依願免職処分はこれを無効のものと認めることができないので、これが無効を前提として被控訴人国に対し控訴人らが郵政省職員たるの地位を有することの確認を求める請求はこれを棄却すべきである。
三、よつて進んで、控訴人柳本を除くその余の控訴人らの下市郵便局長に対する本件依願免職処分取消請求について判断する。
(一) 控訴人らは、本件依願免職処分が国家公務員法(昭和三七年法律第一六一号による改正前のもの)第八九条第一項所定の「職員の意に反する免職処分」であるとして、これが取消を求めているものと解せられるところ、控訴人らは、本件取消原因として不当労働行為の主張をもしているが、その本旨は、右免職処分以外に他の不当労働行為を主張するのではなく、取消を求めるのはあくまで一個の本件免職処分であつて、不当労働行為というのはたんなるその評価にすぎないものというべきである)、右処分に対しては人事院に不服の申立(審査請求または異議申立て)をすることができるのであるから(同法第九〇条第一項)、これが取消を求める訴訟を提起するに当つては、当時施行されていた行政事件訴訟特例法(昭和二三年法律第八一号-以下特例法という)第二条より、右に審査請求を経ることが要件とされている。しかるに控訴人らが右の手続を経たことについては何等の主張をせず、またこれを認め得る証拠もない。
(二) 控訴人らは、本件免職処分に対しては、これを不当労働行為として公労委に救済命令の申立をしているから、これによつて特例法第二条の定める訴願前置の要件はみたされていると主張する。
訴願前置制度の趣旨は裁判所に出訴する前に、当該行政処分の当否につき、一応行政庁に反省の機会を与え、その自主的解決を期待し、同時に行政手続による解決によつて司法機関の負担軽減をはかるにある。従つて前記特例法第二条にいう訴額とは、訴願前置の趣旨から考えて当該処分の適否ないし当不当を直接判断の対象とするものでなければならず、かかる審査の権限を有する機関に対してなされることを要するものと解すべきである。しかるに、不当労働行為救済制度は、不当労働行為を受けた労働行為を受けた労働者または労働組合のために、できるだけ不当労働行為がなかつたと同じ状態を再現するため、当該事件について最も適切妥当と考えられる原状回復の具体的措置を講ずることによりその救済をはかる制度であつて、行政行為の効力の判断などは、行政機関としての公労委の権限に属せず改正前の公労法第三六条の規定も右の結論を左右するものではない。従つて、かかる公労委に対する救済の申立は上叙の趣旨における訴願に当らないことが明かであるから控訴人の右主張は理由がない。
(三) 控訴人らはまた、公労法の適用を受ける現業公務員については取消訴訟の前置手続たる訴願に当る審査請求が公労委に対する救済申立によつて代置されている如く主張するけれども両者は制度の趣旨を異にし、一が他に代置されたというごとき関係に立つものではないことは、前段説明のとおりである。
(四) さらに、控訴人らは、かりに訴願前置を経ていないとしても、本件においては、前記特例法第二条但書の「正当事由」がある旨主張するが、控訴人らの主張するごとき事由は、いまだもつて右但書にいう「正当事由」に該当するものとは認められないので、その主張は採用できない。
(五) その他控訴人下市郵便局長の行つた本件処分は国家公務員法第八九条の処分ではなく、控訴人らに対し同条の定める処分説明書の交付もないから、同法第九〇条の適用の対象とならない旨主張するが、その理由なきところはこの点につき原判決が説示するとおりであるから(原判決三一枚裏六行目から三二枚目表三行目まで)これを引用する。
そうすると、控訴人柳本を除くその余の控訴人らの被告訴人下市郵便局長に対する本訴取消請求は、訴願前置の要求を欠く不適法のものとして却下を免れない。
よつて、本件控訴は理由なしとしてこれを却下することとし、民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 小石寿夫 宮崎福二 松田延雄)